オフショア委託をする、ということは、海外企業と接点を持つことになりますので、異文化との接触は避けて通ることができません。従って、日本国内企業への委託をうまく進めることができる方や、日本人のみで構成されたプロジェクトチームや組織でうまく業務を進めることが出来る方であっても、独特の感覚にてこずる、といった事をよく聞きます。
プロジェクトや業務を進める際に、非常に重要な要素として「コミュニケーション」が存在することは皆様ご承知の通りかと存じます。日本人同士でも色々とてこずる経験をお持ちの方は多いかと思いますが、オフショア委託の際、どこかで必ず外国人とのコミュニケーションが発生するので、日本人同士よりもコミュニケーションギャップが大きいことはご理解頂けると思います。
外国籍の人とコミュニケーションを取る際のキ―ファクタとして、よく言われるのが次の2点になると思います。
- 言語ギャップを埋める
- 価値観(文化)ギャップを埋める
言語が通じるだけでは色々と齟齬や誤解が生じることは皆さんご存知の通り。有名な話かもしれませんが、「はい」「いいえ」のボタン配置を、日本人エンジニアであれば、どの画面においても左に「はい」、右に「いいえ」を配置すると思います。
ただ、外国人エンジニアの場合、ある画面では「はい」「いいえ」、別の画面では「いいえ」「はい」と、右左はばらばらに配置をしてもすずしい顔で「完了しました」と言います。「はい」は全部左に揃えるよう修正してね、と指示すると、あからさまに嫌そうな顔をしたり、「指示しなかった方が悪い」と開き直ったり・・・外国人エンジニア的には、指示された作業工数は提供したから何が悪いの?という事かもしれません。
このような、「言語ギャップ」と「価値観ギャップ」のギャップをゼロにすることは不可能ですから、どれぐらい埋めることが出来るか、ということが非常に重要となります。
コミュニケーションギャップを極小化する手段
オフショア委託の際、必ず外国籍のエンジニアとやりとりが発生する、と申し上げましたが、必ずしも皆様が直接やりとりをする必要があるというわけではありません。
通常お客様と外国籍エンジニアの間に、ブリッジ(橋渡し)をする役割の人物が入る事が大半です。このブリッジ役が、先に申し上げたコミュニケーションギャップを埋める事や、たいていプロジェクトマネジメントやディレクションも行います。そのブリッジ役の人物のステータスにより、プロジェクトやディレクションの進め方だけではなく、どれだけコミュニケーションギャップを埋めることが可能か?ということに直結します。
以下の表は、ブリッジ役のステータスにおいて大きな要素である「国籍」「居住地」にフォーカスを当てて、それぞれの長所と短所を表にしてまとめたものです。
一番リスクが高いのが、ブリッジが国籍・居住地とも海外というパターン。
一番安いですが、Face to Faceのコミュニケーションが取れない上に、文化的ギャップも埋めることはできませんから、非常にプロジェクトの成功確率が低くなります。さらにプロジェクトの進捗状況が一番見えないパターンでもありますから、納期前日まで「大丈夫です」と言っていたにもかかわらず、翌日には「出来ていません」と手のひらを返された、という、聞いたことがある話になる可能性が非常に高くなります。
また同様にリスクが高いのが、ブリッジが日本人だが、居住地も日本国内というパターン。
Face to Faceのコミュニケーションが取れ、文化的背景も把握してもらえるので、一見よさそうですが、ブリッジ役から現地エンジニアまで適切に指示が伝わるかどうかがキ―になります。少人数でブリッジにとって気心の知れた現地エンジニアばかりの場合は、プロジェクトが成功する可能性もあると思いますが、少なくとも日本人が日本在住、かつ恐らくミーティングの都度、現地に出張~一定期間滞在、を繰り返していると、ブリッジ部分のコストが増大し、本来のオフショアで目指したい「低コスト」という部分を完全に打ち消してしまう可能性が非常に高いパターンです。
ではどのようなブリッジが適しているかというと、国籍が外国籍で日本在住のブリッジだと成功確率はグッと上昇します。
現地への指示も恐らく母国語で実施するはずですから、日本人ブリッジが行うよりも指示のずれを抑えることが可能です。また日本在住であれば、Face to Faceの打ち合わせも可能なので、文化面のギャップも極小化することができます。このパターンでプロジェクトが進行すると、成功確率も高まりますが、強いて言えば、日本在住となるので、ブリッジ役の滞在コストはビザの手続き等含め、一番高いものとなります。
もう一つ適したパターンとして、国籍は日本人で海外在住のブリッジ、というパターンです。
現地エンジニアへの指示は、言語や文化の違いを埋めながら実施してゆくことになりますが、逆に現地で外国籍エンジニアとFace to Faceでプロジェクトを進めていくことが出来るので、日本人と外国人、というギャップが極小化できます。
では、外国籍で日本在住のブリッジとどう違うのか???
それはブリッジの滞在コストです。
物価の差が圧倒的に大きいので、就労ビザ等の手続きなどを含めても現地居住コストのほうが日本居住コストよりも安く済むことはご理解頂けると思います。問題はブリッジとのコミュニケーションですが、現在はスカイプをはじめ、様々なコミュニケーションツールがありますので、それらを駆使する事が出来れば、同じ日本人ですから、いわゆる「10を伝えなくても10理解してもらえる」という事が期待できます(本来のプロジェクトマネジメントでは胸を張って推奨できる方法ではありませんが)。
従って、日本国内と同様の、きめ細かいサポートを期待することが可能となり、恐らく最適なブリッジのパターンと言えるのではないでしょうか。
最後になりますが、皆様ご存知の通り、コミュニケーションの基本中の基本として、伝えたい事を相手が理解して初めてコミュニケーションが成立します。オフショアの場合も、どこかで外国人との接点が発生しますので、どのようなブリッジの形式で進めるにせよ、決して独りよがりにならないように、常に「伝えた事がきちんと把握できているか」を確認しながら進めて頂くと、ブリッジに頼りっぱなしではなく、セルフ・リスクマネジメントが実施できるはずです。