11月26日のYahoo!ニュースに『フィリピンの電力網、中国が「いつでも遮断可能」内部報告書が警告』というトピックがありました。記事を要約すると、中国の国家電網(※1)という会社がフィリピンの送電事業者NGCP(※2)の株式の40%を保有しており、運営のためのスタッフもNGCPに派遣しているため、中国政府によるフィリピン国内の電力停止がいつでも実行し得る状態である旨の内部報告書が存在する、というものでした。

※1 国家電網:国家電網公司(英名State Grid Corporation of China ⇒ SGCS)という中国国有企業で、国内最大の電力配送会社。前身は全国の送配電網と全ての発電所を統括していた国家電力公司。フィリピンの他にもイタリア、ブラジル、ポルトガルなどの海外企業の株式を買収している。

※2 NGCP:National Grid Corporation of the Philippines。2009年に民営化されたフィリピン唯一の送電事業者。フィリピン全土で電力の送電事業を行っている。

万が一フィリピンでの電力が停止されたとなれば、1年中真夏のようなフィリピンでエアコンなし、扇風機なし、携帯の充電ができない、買い物だってレジ等が動作しないので通常通りにはできません。信号も機能せず交通がマヒ(セブには電車はありませんが、マニラは電車も機能しなくなるでしょう)、夜は真っ暗と、一般家庭への被害はもちろんのこと、企業も大打撃を受けることでしょう。当社のオフショア地であるセブITアウトソーシングセンターでも、Webサイト運用やAI(人工知能)の機械学習のためのアノテーションデータ作成、WEB開発など、すべての作業にコンピューターが必須であり、電気がなくなってしまえばパソコンもただの箱になってしまいます。フィリピンには、様々な国の企業が数多く進出しています。そのためフィリピンでの電力停止はもはやフィリピンだけではなく、世界中の国々が影響を受けるといってもいいでしょう。

記事にもあるように、中国による電力の遮断はあくまでも理論上可能ということであり、もし実際に他国により自国の電力供給が止められたとなれば、世界中を巻き込む大事件となってしまいます。さらに中国といえば、近年多くの中国人労働者がフィリピンに流れ込んできており、フィリピン政府がその正確な人数や就労の違法性などを管理できていないことも問題になってきています。急激に中国人労働者が増えた背景には、ドゥテルテ政権によるインフラ建設ブームがあるそう。

実は日本は、フィリピン最大のODA供与国であり、セブに身近なものだとマクタン島とセブ島を繋ぐ橋や、セブ市内からタリサイ市方面へ向かう湾岸線沿いの開削トンネルなどが日本の支援によって建設されています。1966年から2017年までのODA供与実績を見ても日本は56%と圧倒的なシェアを占めていますが、ドゥテルテ政権の「Build, Build, Build」というインフラ整備計画により中国のODA案件も多くなり、その作業に中国人のエンジニアや労働者を自国より高い賃金で雇っているそうなのです。

また、ここ数年セブ、マクタン島でも中国企業及び中国人の進出が著しく目立ちます。「マクタンニュータウン」というマクタン島唯一の近代タウンシップ型開発地区では、現地のフィリピン人よりも中国人のほうが多いのではないのかというほど、敷地内は中国人だらけ。スターバックスも、セブンイレブンも、スーパーの中も、敷地内にある高級コンドミニアムも、どこにいっても中国語が聞こえ、すれちがうのも中国人ばかり。そしてニュータウン周辺には中華料理レストランや中華物産店が多く、中国語の看板も増えてきています。そんな彼らはセブに進出してきた中華系BPO企業で働くコールセンタースタッフなのです。これまでは、その運営コストの低さからオフショア地として人気だった中国も、人件費の高騰や人材の流出などにより見込んでいたほどコストダウンができない、品質維持が難しいなどの理由から、東南アジアへ人気が移りつつあります。中国企業もセブへの進出で国内運営よりもローコスト、また物価も低くリゾート地であること、英語学習提供等の福利厚生を利用し、優秀な人材の確保を狙っているようです。マクタン島では現在はコールセンターが主流ですが、もしかしたら今後は中国のITO企業も進出してきて、たくさんの中国人エンジニアがセブに来ることになるかもしれません。

参考
– Yahoo!ニュース https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191126-35145970-cnn-int
– CNN.co.jp https://www.cnn.co.jp/world/35145970.html
– 人民網日本語版 http://j.people.com.cn/94476/100561/100569/7597279.html
– JETRO海外ビジネス情報 https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/774550303b94f20b.html

(Emi)