こんにちは。

外国に住む日本人が出汁の香りが恋しくてたまらず、日本に帰国すると、何はさておきまずは店屋に駆け込み、憧れのうどんをすする。なんて話はよく耳にします。

フィリピンの食事は基本的に日本人の口に合います。酸っぱすぎも辛すぎもせず、肉も野菜も日本で使われている食材とそれほど違いません。わざわざ日本食のレストランに入らなくても、スーパーには普通に醤油も売られています。それほど恋しいなんて思いません。

そんな具合に2年ほど全く平気だったのですが、ある時、急に鼻腔に味噌汁の香りが蘇りました。それはもう鮮やかに。何の前触れもなく。

ロシア語通訳者として知られた故・米原万里さんのエッセイに、いみじくもこう書かれています。

「人間を故郷と結び付ける糸には、じつに様々なものがなり得る。偉大な文化、雄大な国民、誉れ高い歴史。しかし、故郷から伸びているいちばん丈夫な糸は、 魂につながっている。いや、つまり、胃につながっているということだ。これはもう、糸などというものではなく、綱であり、頑丈なロープである」

旅行者の朝食(文春文庫)米原 万里
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これを私も経験してしまったわけです。

ホカホカ炊き立ての白いご飯を見たら、パブロフの犬並みにごくんと唾を飲み、ぎゅっと握って塩を振ってお握りにしたくなる。これが日本人のDNAには組み込まれているのです。

ひとたび気になってしまうと、もう食べたくて食べたくて。このメニューはあの野菜で代用できないか、この麺の食感は似ていないか…などと、どうにかして記憶の味を復元しようと夢中になります。

数日の間、幻の味噌汁に悶え苦しんだ私は、とうとう日本のお味噌を売っている店を見つけ、2袋購入してしまいました。できるだけこちらの暮らしに溶け込んだ生活をしようという夢は、あえなく挫折してしまったのです。

ちなみにセブで味噌が珍しいのは、冷凍では味が落ちるし、常温では暑すぎて保存が利かないのが原因のようです。

(R@節電中)